仏蘭西少女の感想らしきもの

仏蘭西少女というのは18歳未満の人がプレイするのはご遠慮願いたい種類のゲームです。なので、この記事も大人な人だけ続きを読んでいただけると嬉しく思います。




STONEHEADSさんのスタッフ日記が随分見ない間に更新されており、その中の『仏蘭西少女開発回想録』を興味深く拝見させていただきました。

まだ、回想録は途中なのですが、なるほどなるほど、と。


分岐が物凄いので実はまだ回想シーンが全部埋まっていなかったりします。

主人公の矢旗澤政重さんが愉快過ぎる性格をしていらっしゃったので、個人的には楽しくテキストを読みました。

本来、こういうものの主人公は当たり障りの無い性格で、ヒロインたちを立てるのですが、この人、自重するということを全く知りません。いつのまにか、次にこの人が何をやらかすのかを見なければならないような強迫観念にかられてマウスをクリックするようになっていました。

周りから呆れられ、注意されても上の空、挙句の果てに大切なものまで失う。

全く良い所の無い主人公です。

しかし、大量に分岐があるので人道的な行いにより、少しはましな結果を得られるルートもちゃんとあります。

因果応報というやつです。

けれども、あんまり良い所を覚えていないかもしれないです。

深く悩んだり、真情を吐露するのですが、悩んでれば良いってものでもないので、同情するとか共感するとかそういう感情を抱くのは難しいかもしれません。


ただ、義理の妹(香純)以外に全く好かれていないというのはさすがに泣きそうでした。

友人1(治道)にはやっかいな遺産を託され、金の無心をされそうになり、勝手に同属扱いされ、

友人2(眞山)には仕事しろと怒られ、呆れられ、義妹を取られ、

ヒロイン1(舞子)にはトラウマ克服の為に利用され、

ヒロイン2(オルタンシア)は主人公の色々な状況を察するような機能を有しておらず…。

時には詐欺師(伊佐治)に全財産を騙し取られ…。

とにかく、何でこの人こんな目に会わないといけないんだろう?過去に何かよっぽど悪いことをしたから、そのせいで気持ちが荒れて様々なことが悪い方向に向かうのだろうか?などとと色々考えながらプレイしたわけですが、全然原因らしい原因もなく、ただただ不幸に巻き込まれてしまった、可哀想だけれど全く同情できない人でした。

まあ、人の直面する問題と言うのは、簡単な因果関係で説明できるものでは無いと思いますが。


けれど、狂気というのは何故か人を惹き付けるものだなと思います。

その辺りの描写とか配分とか凄いなと。

そして、48もエンディングがあり、テキストがライトノベル36冊分だとかそういうレベルなので、プレイしている方の頭も疲弊してきて、


全てが滑稽だった。

碌で無しから碌で無しへ引き渡された少女も。

碌で無しに人生を破壊され。

碌で無しを身代わりに仕立てようとした舞子も。

碌で無しに人生を託して、侵される羽目になった香純も。

女達はみんな碌で無しの周りを回る。

碌で無し万歳だ!!


もしくは


『「先ず、貴男も治道も義理と実の差はあるとはいえ、女姉妹と密通している。

さらに二人とも女に非道く鈍感で冷淡で残酷な部分が在る。

其の上、二人とも少女の保有者」

「其の上、一人称も同じ僕。

もっと言えば、二人とも働きもしない碌で無しですね」』

「ははははははははははははっ」

英雄は英雄を知るならぬ、碌で無しは碌で無しを知るという訳だ!!

碌で無し万歳だ!!


なんて言われるとこちらも「碌で無し万歳だ!!」と返したくなるというものです。

碌でも無いです。


改めて見てみると、この人、自分の置かれた状況を良く分かっていて悲劇に巻き込まれてるんですね。けれども、香純ちゃんの主人公を思う気持ちには気付かない。というかわざとみて見ぬ振りをして意識しないようにしている。

常に、「逃げ」の姿勢なのでしょう。

でもまあ、香純ちゃんも自分の気持ちを見て見ぬ振りをしていた訳ですし、お互い様でしょうか。

そういう、「言わない」「逃げる」関係は主人公と香純ちゃんだけの間にある訳じゃなくて、


政重と舞子 意図的に「言わない」云わば詐欺、薄々気付きながら肉欲に「逃げる」

政重と眞山 政重と香純が「閉じている(逃げ)」ので「言う」行為自体が無効

舞子と治道 「言えない」「言わせない」「逃げる」


それぞれの関係の間にもあるなと感じました。まだまだあると思いますが…。

そして、「逃げた」先にいるのは「言葉を持たない」少女です。

そこはすでに人間同士の関係ではありません。確信的に逃げた政重にとってそれは快楽だと表現しつつも、自らへの罰です。だから、プレイヤーの方も苦しい訳です。(本当に苦しかったですよ。げっそりしました。)

毎日の食事シーン(少女はネクタルというケフィアみたいな液体を口移しでしか摂取できない)は、拷問でした。

あの微妙に細部が異なる何種類ものテキストを書くのはかなり根気のいる作業だったのではないでしょうか。

思い出すだけで頭が朦朧としてきます。

そして、逃げた先にいる「言葉を持たない」少女とどう接するのかについても選択肢が用意されています。

少女と言うのははっきり言って人ではありません。ものぐさ太郎の政重君が簡単に太刀打ちできる相手ではありません。もう、この辺に来るとプレイするほうもイライラしてきます。政重●ねよ!!と思います。でも、それじゃ困るのです。政重君は無気力児童なので自らを打ち捨てようという気まんまんです。

それでは、たしか2/48しか解決しません。誰とも対話せずに一方的に話しかけてくる詐欺師の伊佐治に騙されるか、少女との肉欲に溺れるという業をなしつつ最後に死ぬかの二択です。


奴が色んな人間と対話できるようになるまでにプレイヤーが本当に苦労します。このゲームは政重君のことが好きじゃなきゃ最後までやれません。パッケージの少女が可愛いからとかそういうのだけはやめておいた方が良いです。人間の子供と言うのは知性があって賢いから可愛いのであって、外見がふわふわしていてさわり心地が良さそうだからとかそういうのが理由ではありません。触り心地だけならば、高級毛布を買うべきです。もしくは、精神の宿らない純粋な人形を買うべきです。いや、そもそもこのゲームの少女が特殊すぎるので色々言っても仕方ないですね。彼女は人形でも人間でもありません。私には難しすぎて分かりません。


香純ちゃんが好きな人はまだ救われるかもしれません。香純ちゃんはお兄様が無条件で大好きな人なので、自分が政重君だと思えば何とかかんとか…。しかし、島尾敏雄の『死の棘』みたいな関係に陥ったりもするので、苦しいことは苦しいです。そして、香純ちゃんは「言葉を持たない」状態になれば、政重君が振り向いてくれると思っています。そして、確かにそれは当たっています。政重君は「逃げて」「言葉の無い」世界に行ったので、香純ちゃんがそういう状態を自宅に作り出せば、お兄様は戻ってくるのかもしれません。けれど、お兄様は、香純ちゃんの「言葉」が嫌で「逃げた」のではなく、「関係性」から「逃げた」ので、「言葉を無くす」だけじゃ駄目です。


舞子さんのチャイナドレスの隙間を見て購入しても決して幸福にはなれないでしょう。舞子さんは政重君を巻き込んでどんどん勝手に先に行ってしまう人です。巻き込まれるのを心地良いと感じる人はきっと楽しいでしょうが、彼女の気持ちは一度も政重君のものになりません。政重君を「子爵」と呼んでからかいます。そこには、何か侮蔑のようなものが含まれているように感じました。舞子も元伯爵家の出身ですが、そういうものを一切合財捨ててきた女です。捨てざるをえない状況に陥ったので捨てたのに、そういうことが全く起きていない政重「子爵」を侮蔑するのは大人気無いなと思いました。関係の無い子爵を巻き込んでしまったのは彼女の弱さ故です。もしかしたら、ヒロインの中で一番守ってあげなければならない存在なのかもしれません。残念ながら、政重君がそういうことを自覚するルートはひとつもありませんが…。(まあ、そんなことが分かる男ならもっとましな状況になってるはずです。)子才という舞子の男もその辺り分かってないなと…。子才じゃ舞子の傷を癒すことはできないと思います。彼はただ強く、思い遣りのあるだけの男であり、弟や子爵のように舞子を内側から揺さぶるタイプの男では無いなと思いました。はっきり言って子才じゃ満足できなかったので、政重君を誘ったんじゃないでしょうか。舞子さんは子爵をかわいそうだと表現しますが、それは強がりです。子爵は舞子さんにいたぶられることで、彼女を癒しており、いたぶることでも彼女を癒しています。けれども、彼女が完全に癒されることは一生無いと思います。子爵は大正12年現在、舞子にとって必要不可欠の存在ではありましたが、生涯を共にする必要は無い。それは、子才で十分です。だから、彼女と結ばれるルートが存在しないんだろうなと思いました。


政重君が突然探偵ごっこを始めたりするのでそういうミステリー要素を楽しめるのかと思いきや、そんなことは全く無く、その探偵ごっこも政重君のヘタレ具合を強調する飾りみたいなものなので、そういうのを期待してもダメです。各所に電話をかけるシーンがあるのですが、「人の内心を忖度するのが下手」「交渉に慣れていない」と自分で分かりきっているところが余計に悲しいです。


最初の方で、同情や共感は難しいとは書きましたが、政重君が「言わない」「逃げる」をある意味積極的に選んでいこうとする気持ちもわからなくは無いです。日常というものは「言う」や「立ち向かう」ことがきっかけで壊れていくことが多々あるからです。

政重君の生活は、治道が怪死するまでは極めて平凡で、「香純と顔を合わせる」「会社へ行く」「判子を押し続ける」「会社から帰る」「香純と顔を合わせる」「ジグソーパズルという反復運動をする」「睡眠」の繰り返しでした。

また、彼の母親はトラブルメーカーでしたが、それに対して父親は、それを徹底的に日常の一部、違和感を押し隠す方向へと持って行っていました。なので、政重君は日常を変えるという発想、非日常を体験するということ自体を具体的に得ないまま大人になったのではないでしょうか。だから、唯一の非日常であった父親と母親「らしき」人が見世物見物に行くという記憶を非日常に際し、何度も思い出すようになったのでは無いかと…この記憶に関しては別の効果もあったので何とも言えませんが…。

政重君の父親がもっと早くに日常を打ち破るような行動に出ていれば、政重君は大正12年にもっと違った生活を送っていたことと思います。もしかしたら、お父上が行動に出ることで、ご近所の唐森家みたいな惨劇になっていたかもしれません。政重君の頭が何故か花ちゃんとリンクするのもそういうところに関係するのでしょうか…。



そんな感じで、もうプレイしたのは一年近く前になってしまったので、細かいところの感想などはもう一度テキストを読めば違うものが出てくるかもしれません。そもそも私自身がプレイ中に鈍感子爵状態になったので、色々間違っているかもしれません。

残ってる二つの回想をそろそろ埋めないといけないなと思う次第です。