つげ義春

社会などというところに出てみると他人のことばかり考えさせられる。しかし、どこまで行っても他人は他人であって考えて分かるものではない。けれども、他人について考えさせられる。世の中の為だとか会社の為だとか自分以外の何かについて考えなければならない。自分のことについて考えていると嫌われる。考えてても良いが、他人に関心のあるふりを忘れてしまうと頭とお尻を叩かれる。

そういうときに、つげさんの作品を読むと癒される。

自分というものに対する純粋な疑問が書かれる。

この癒しは、長吉ちゃんには無い。無くていいが。

長吉ちゃんは怖い。怖いからちゃん付けなんて失礼なことをして自分を鼓舞している。

長吉ちゃんのお陰で、「怖い」と直感的に思った男の人の言うことを素直に聞くようにしたら、良い事が起こるようになった。それ以来、男の人は「怖い」ところが無いといかんなと自分の中で勝手に決めた。あんたの好みのタイプなんてきいとらんがな、という話である。たいてい、長吉ちゃんの名前が出てくると、長吉ちゃんが好きで好きでたまらないみたいな内容の記事になる。長吉ちゃんも見ず知らずの人間から好かれて気味が悪かろう。作家というのはかわいそうな職業でもあるなと思う。