野崎まど know

web上を検索するための機能が現在でも検索エンジンとして存在しますが、そのエンジンが直接、脳と直結するようになった世界の話です。啓示視界といって、google glassのような視界が、グラスを掛けずとも視界に現れるような世界です。この世界では、電子葉と呼ばれているものを前頭前野に埋め込むことで、あらゆる情報の取得が可能になるようです。この世界では6歳になると電子葉を埋め込むことが義務付けられています。

こういう、もしも?の世界の話は、設定を辿っていくだけでも楽しいものがありますね。特に、科学技術が発展した話は、現在の科学技術に関する知識を調べてみようというような気分にもなれるので、大好きです。

主人公は、情報庁に勤める官僚の男性で、ヒロインは、中学生の女の子です。この中学生の女の子は電子葉のさらに発展した量子葉を0歳から脳内に埋め込んでいるという特殊な人間です。というのも、電子葉を開発した研究者を父親に持つからで、この父親は14年前、ある事情で自分の研究成果を無断で所属機関から持ち出し、同時に世間からも姿を消すという事件を引き起こしました。そして、この女の子は、父親の失踪後に生まれたという設定になっています。

主人公は、元々は、女の子の父親である研究者から直接、電子葉や電子葉の構築プログラムに関する知識を教授され、世界の誰よりもその研究者を尊敬し、理解していたために、その研究者がソースコード中に残したメッセージに気づき、事件に巻き込まれることになります。その過程で、研究者の娘である女の子と知り合い、女の子の目的を達成するために、彼女を守り、彼女の行動を見届けることになるというのが物語の大筋です。

この父親も女の子もなんとも研究者らしいというか、人類全体への貢献、次の世界、理想の世界への憧憬とそれを実現するための綿密な行動力、さらにそれらを後押しする知的好奇心に溢れた人間として描かれているところがこの小説のすばらしさに繋がっているような気がします。

科学技術というものの背後には、様々な人の思いが込められており、それを丁寧に辿っていくことで真理に辿り着けるという思考の旅自体にもスリルがありますし、その真理を知り、さらにその先に進もうとする行動力こそ人間のすばらしい本質ではないかという気がします。

これらの思考力や行動力があるから、人間というのはこれだけの膨大な知識と技術をこれまでに得て来たのかもしれないと思いました。

 

know (ハヤカワ文庫JA)

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