芥川龍之介 歯車

芥川龍之介の最晩年の作品です。

読後感としては、全体的に埃色のイメージが広がりました。

その中に、ぼんやりと浮かび上がるレエン・コオト、歯車という黒色、

片目が充血した友人、色硝子のランタアンという赤色、

灰色、黒、淀んだ赤という色が印象に残りました。

(レエン・コオトと歯車は黒という描写はありませんが)

うつ病に罹ると、世界が灰色に見えるという研究結果もあるので、芥川のこの作品もそういった心情が綿密に描写されているのかもしれません。

ブルーな気分だと世界が灰色に見える、人類共通の現象を科学的に実証 - GIGAZINE

 

実は、読むのは今回で3回目でして、時々、読みたくなる作品だなと思います。

作中に以下のような記述があります。

 

恐しい四つの敵、――疑惑、恐怖、驕慢けうまん、官能的欲望」と云ふ言葉を並べてゐた。僕はかう云ふ言葉を見るが早いか、一層反抗的精神の起るのを感じた。それ等の敵と呼ばれるものは少くとも僕には感受性や理智の異名に外ならなかつた。が、伝統的精神もやはり近代的精神のやうにやはり僕を不幸にするのはいよいよ僕にはたまらなかつた。

 

こんなことを気にする人が昨今存在するでしょうか?いえ、昔から存在しなかったのかもしれません。

 

細かいことは分かりませんが、読後に心が満たされると言いますか、ぼんやりとした安心を感じられる作品だなと思います。