夫・車谷長吉
詩人で車谷さんの奥さんである高橋順子さんがお書きになった本です。
車谷さんと高橋さんの馴れ初めから、車谷さんが急逝されるまでのことが描かれています。
車谷さんと高橋さんは大変仲の良いご夫婦だったのだなということが伝わってくる内容でした。
そして、車谷さんは幸せ者だったのだろうなと。
車谷さんと高橋さんの馴れ初めは、車谷さんが高橋さんに一方的に絵葉書を送り付けたところからスタートします。
そんな一方的な絵葉書を11枚も送り付けたそうです。
その絵葉書の内容がまるで独り言で恐ろしいものを感じて返事など書けなかった。と絵葉書を送り付けられる度に書いてあるのが面白かったです。
車谷さんの小説で何が面白いか、というと、毎回冴えない男が唐突に、美人を見つけ、後をつけた後、唐突に美人に話しかけるという狂気を孕んだところだといつも思っていたので、奥さんにも似たようなことしたのか、と可笑しくなりました。ただし、奥さんに対してはかなり用意周到ですが。
面白かったのはそれくらいとは言いませんが、最後に車谷さんがこの世を去る展開であることは目に見えているので、読み進めるのが憂鬱でした。私はどうも最後に人が死ぬ小説や読み物が嫌いで、フランダースの犬なんかも大嫌いです。
それから、奥さんがいたからこそ、鹽壷の匙や赤目四十八滝心中未遂が世に出版されることになったんだろうなと漠然と思いました。
高橋さんが結婚したいと言わなければ、車谷さんは出家するか自殺していたと思いますので、高橋さんも変な人に関わってしまったなとちょっとは思ったでしょう。
そして、車谷さんに無断で小説に書かれた人々は、早々に出家するか自殺すれば良かったのにと思っていたに違いないのですが、それは現実のつまらないだけの話なので言及しない方が良いものでしょう。
今更ですが、車谷さんの小説の面白い部分は、主人公のダメさと車谷さんの女性に対する洞察力とそこから生み出される女性が発するふとした瞬間の言葉の輝きであり、私小説的な部分ではないと私は思います。